PythonとR、結局何が違う?
Python―どんな開発でも使える万能言語
Pythonは、1991年にグイド・ヴァンロッサムによって開発された汎用プログラミング言語です。教育用のプログラミング言語「ABC」の後継として、「よりシンプルで分かりやすい言語」を目指して開発され、30年以上の歴史があります。
2000年10月にリリースされたPython 2.0で様々なアップグレードが施されたことにより、Pythonは非常に汎用性の高い言語となりました。Webアプリケーション開発、システム運用、AI開発…。データ分析に限らず多くの開発現場で使われる言語です。
InstagramやDropboxのような有名なWebサービスにも使われており、汎用性の高さや開発での扱いやすさから、開発規模を問わずあらゆる現場で導入されています。
また、ライブラリが非常に豊富で、機械学習の分野ではTensorFlowやPyTorchといったディープラーニングのフレームワークが標準でPythonベースで提供されています。
R-統計解析が得意な言語
R言語は、1993年に統計学者のロス・イハカとロバート・ジェントルマンによって開発されました。統計学者が開発したという背景から分かるように、統計解析、データの可視化、統計的モデリングのために特化して設計された言語です。
学術分野での利用が中心だったため、複雑な多変量解析や因果推論など、統計学の理論に基づいた分析を簡潔な記述で実行できる点が強みです。
Rは今でも学術分野では根強い人気がありますが、近年ではUberやGoogle、Facebookなど大量のデータ解析が必要な企業でも採用されています。また、分析結果の解釈が重要視される医療業界でもよく使われています。
RとPython、5つの観点で徹底比較!
比較①:主なユーザー
Pythonはデータ解析だけでなく、エンジニアリング全体をカバーできます。そのため、データ分析の結果を本番システムに組み込む場合などに重宝されており、Web系のIT企業やSaaS企業、人材サービスなど幅広い業種で活用されています。IT関連企業にいたらいつかPythonを扱う案件にあたる、と言っても過言ではありません。
一方で、Rはデータの深い解釈と統計的な厳密性を求める専門家から重宝されています。大学のような学術分野で活躍しているのはもちろん、臨床結果の分析のような複雑かつ緻密なデータ分析が求められるヘルスケア業界、官公庁、コンサル業界などでよく使われています。機械学習の台頭で一般企業での利用も増えているものの、Pythonと比べると全体のシェアとしてはまだ低いです。
比較②:言語としての優位性
Pythonの最大の特徴は、その汎用性の高さです。データ解析だけでなく、アプリケーション開発にも使える汎用性の高い言語はなかなかありません。AIシステムやIoT機器、クラウドなどとの相性も抜群で、ライブラリも豊富。利用者が多いので、仮に問題が発生してもすぐ解決策を見つけやすいです。
一方Rは、統計的な厳密さを追求できる点がPythonと大きく異なります。信頼区間やp値といった統計学的観点での分析がしやすく、統計関連のパッケージ数はPythonを優に超えます。また、グラフや表といったデータを可視化する際に非常にわかりやすい図解の出力が可能です。
比較③:学習しやすさ
Pythonは、構文がシンプルで英語に近いため、プログラミング初心者でも学習しやすい言語です。文法を一から学ぶとしても、基礎の習得だけなら2カ月弱で可能です。また、データ分析以外の分野(Web開発など)にも応用できる、参考になるライブラリが豊富にあるため、モチベーションを保ちやすいという利点があります。
対してRは統計学の知識がある人にとっては覚えやすいものの、初めてプログラミングを学ぶ人にとってはハードルが高く感じるかもしれません。データ構造(ベクトル、リスト、データフレームなど)の概念が独特で、統計学の知識がない場合は両方並行して学ぶことになるため、習得までに時間がかかります。
しかし、RのTidyverse(タイディバース)と呼ばれるパッケージ群は、データ操作をパイプ処理によって簡潔に記述できるようになり、学習しやすさが大幅に向上しました。
比較④:スキル習得後の年収
転職市場という観点で言えば、Pythonを扱えるエンジニアの方が人気かつ高収入のチャンスもあります。データサイエンスのみならず、データエンジニアリングやバックエンド開発など多岐にわたる職種で評価されている言語なので、今後転職や独立を考えている場合、Pythonの習得は必須と言えるでしょう。
求人サイトのIndeedで「Python エンジニア」と検索すると6000件以上ヒットし、ヒットした求人の多くは実際にPythonを扱っている案件ばかりです。一方で「R エンジニア」と検索すると、Rを扱う案件も存在するものの、求められる業界がかなり狭いです。
金融の定量分析や高度な臨床統計など、Rの専門スキルが必須とされるニッチな分野では、Rの知識を持つ人材も非常に高い報酬を得られます。狭い業界からいい求人を探し、年収アップを狙うのは難しいですが、年収アップのチャンスは転がっているといえるでしょう。
比較⑤:将来性の有無
Pythonは、AI・機械学習の進化とクラウドインフラの発展に伴い、その将来性は非常に高いと言えます。特に「大規模データ処理」や「システム連携」を重視するあなたのキャリアにおいて、Pythonの学習はリスクの低い投資です。
Rも統計解析分野での将来性は揺るぎませんが、一般企業で今後採用する企業が増えるかと言われると、少し難点があります。Web系企業での汎用的なキャリアを目指す場合、Pythonの習得は避けて通れないといえるでしょう。
ただし、RもPythonもそれぞれ強みと弱みがあります。両方使えると、プロジェクトごとに使い分けができるようになり、効率アップやより精密なデータ分析ができるようになります。データサイエンスのプロとして活躍したい場合は、“両方習得する”という選択肢も入れておきましょう。
RとPythonの得意・不得意を目的別に比較
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①データの前処理・加工:汎用性ならPython
Pythonのライブラリの1つであるPandasは、データの前処理から特徴量エンジニアリング、機械学習モデルへの投入までを一貫して行えます。処理の一貫性を重視する場合に優位です。
Pythonで文字列を扱う場合、raw文字列を使うと、正規表現内のバックスラッシュの扱いが容易になります。
一方、RのTidyverseは、パイプ演算子を使って処理の流れを直感的に記述でき、分析者にとっての使いやすさを追求しています。ただ、文字列処理はPythonの方が強力かつ汎用的なライブラリがそろっているのが現状です。
②機械学習 vs 統計モデル:実装のPython・解釈のR
Pythonは学習したデータから“予測”することを得意としています。分析したデータを用いて機械学習をさせるような場面ではPythonのほうが優位です。Pythonは機械学習のライブラリが豊富に存在しているので、MLモデルを構築してからAPIとして公開するまでの一連の流れがスムーズに進められます。
一方で、Rは分析対象のデータを用いて“説明”することを得意としています。統計モデリングの専門的な深掘りを求めているなら、Rが最適。結果のp値や信頼区間といった統計的解釈に必要な情報の出力が標準化されているので、学術的な厳密性を持って分析を進められます。
③データ可視化・グラフ作成:学術的な美しさならR、Web連携はPython
分析したデータを可視化する機会は割と多いもの。どう可視化し、どう活用するかによって最適な選択肢が変わってきます。
Rは学術的に美しいグラフを出力できます。Rで分析したデータの可視化にはggplot2がよく使われますが、グラフィックの文法に基づいており、レイヤー構造で非常に柔軟かつ美しい統計グラフを作成できる点が特徴です。分析結果をレポートや論文で発表する際には、Rが圧倒的な強みを発揮します。
一方Pythonにもデータ可視化のためのライブラリが存在します。よく使われるMatplotlibは気軽にカスタマイズでき、かつインタラクティブな可視化も可能です。また、もともとの汎用性の高さから、データ可視化の結果をそのままWebアプリケーションとして公開したい場合はPythonで構築するとアプリケーションとの連携がスムーズにできます。
④大規模データ・AI開発:Pythonがエコシステムで圧勝
大規模なデータ処理が必要なら、Python一択と言っても過言ではありません。
PythonとRでは処理速度に差があるとされており、大量のデータを扱うならPythonのほうが圧倒的に速く処理できます。Rにも大量データ分析に対応できるライブラリが存在しますが、どのライブラリでも分析する際にメモリを大量に消費する傾向があります。処理がシングルタスクになりやすいため、効率という観点でもおすすめしにくいでしょう。
また、 PythonにはMLモデルを本番環境にデプロイするためのMLOpsツール(Kubernetes、 Dockerなど)との連携ライブラリが存在しています。分析結果をシステム化しやすく、極めて実用的です。
まとめ
PythonとR、どちらもデータ分析で力を発揮する言語ですが、言語の持つバックグラウンドが異なるので、力を発揮できる場面が大きく異なります。
Python:汎用性、大規模データ処理、機械学習の実装、Webシステムへのデプロイを重視する場合に最適
R:統計的厳密性、高度な統計モデリング、学術的な可視化を重視したい場合に最適
どちらの言語で分析するか迷った際は、解析したデータをどう扱うか、アプリケーションとの連携が必要かによって使い分けるのが最適と言えるでしょう。
Pythonのほうが転職市場での価値は高いものの、データサイエンスの分野でこれから結果を残したいなら、両刀使いになるのも一つの手です。キャリアアップの一環として、少しずつ勉強するのもよいでしょう。











