――今の仕事内容を教えてください
システムの企画立案、目標達成に向けたロードマップ策定、コミュニケーションパス作りなどの広範な業務を担当
仕事内容
2025年2月から、株式会社ゆめみのビジネスアーキテクト部門でITアーキテクトとして働いています。
ITアーキテクトとしての業務は実に幅広いものです。設計ビジョンや目標に向けたロードマップの策定、ステークホルダーとの関係性の構築、開発チーム間のコミュニケーションパスの設計などを担当します。
IT領域以外のフローを検討した上で、システム化すべき部分の企画立案も、ビジネスアーキテクトの重要な業務のひとつです。
業務で使用する技術
まず、高品質なアーキテクチャの構築には、要求分析やステークホルダーとの関係性の可視化といったPMとしてのスキルが必要不可欠です。
システムの設計思想や原則、KPIマネジメント、組織ルールの設計運用、コミュニケーションパスの設計などに関する知識やスキルも求められます。
勤務形態
勤務時間は9時~18時にしていますが、フレックス制も利用可能です。今後の状況に応じて、フレックス制の利用も検討したいと思います。仕事はフルリモートで行っています。
――今の仕事の良いところ、大変なところは?
俯瞰的に物事を捉えるITアーキテクトの業務の魅力と、多種多様な知識をキャッチアップし続ける大変さ
今の仕事の良いところ
組織全体にプラスとなるシステムの設計から構築、運用までを担うITアーキテクトの業務は、非常に複雑で難解なものです。その難解さに挑戦し続けていくことに、大きなやりがいを感じています。
困難な業務に挑戦してきた結果として、転職市場で高い評価を得ることができ、キャリアアップや年収増も実現しやすくなります。
ビジネスやシステムについて多角的な視野から捉えるITアーキテクトの仕事は、物事を俯瞰的に見つめる能力向上につながるものです。この点もITアーキテクトという職種の魅力だと考えています。
今の仕事の大変なところ
広範な領域の知識をキャッチアップしなければいけない点、業務内容や目的を多面的に理解する必要がある点が、大変な部分です。
PMとしての役割を担いながらITアーキテクトとしての職務を実践するには、目的に応じて動的に変化する組織の設計、業務プロセスの再構築といった業務に対応するスキルが必要です。くわえて、データやアプリケーションアーキテクチャや、ポリシー系制度の設計・運用のための制約理論(複雑なシステムも、常に、ごく少数の要素に影響を受けるという考え方)などへの理解も求められます。こういった多種多様な知識やスキルの向上に取り組む仕事は、興味深いものであると同時に、大変でもあります。
――1日の流れと仕事とプライベートの切り替え方法、休日の過ごし方は?
オフタイムの自主学習を継続して実践。音楽やボルダリングで気分をリフレッシュする
平日の流れ
自身の担当業務を進めながら、適宜オンラインミーティングを行うのが、1日の基本的な仕事の流れです。ミーティングの頻度や時間は、案件ごとに異なります。
業務終了後は、オンラインやオフラインで開催されるさまざまな勉強会に積極的に参加しています。外出時の電車移動中は、技術書やビジネス書を読むことが多いです。入浴中もkindleで読書をするのが習慣になっています。
仕事とプライベートの切り替え
休憩時間や業務終了後に、好きなメタル系の音楽を聴いたり曲を編曲したりするのが、気分の切り替えに役立っています。パンダの動画も大好きで、SNSに投稿された動画を見ていると気分が癒されます。
また、仕事以外の個人的な活動として、技術書やビジネス書についての議論などをオンラインで行うワークを企画・開催しています。2021年春に知り合いに声をかけ始めて以来、不定期で行っており、週1回ペースで開催することも珍しくありません。
このワークの目的は、書籍から得た知識を議論して互いに教え合うことで、理解度を深めることです。最近も『システムアーキテクチャ構築の原理』という書籍を題材にしたワークを開催しました。
休日には、2024年の秋に始めたボルダリングをすることが多いです。全身を使う運動なので体力の強化になるし、どんな道筋で登っていくかを考える作業が、仕事でのロードマップ検討に似ていて面白いと思います。
仕事とプライベートの切り替えを強く意識することは、あまりないですね。勤務時間外でも、仕事に活かせそうなアイデアを思いついたら、すぐにメモすることが習慣になっています。ITアーキテクトの仕事や学習がとにかく楽しいので、過剰なストレスを感じることなく続けられています。
――ITアーキテクトになったきっかけ、現職に転職したきっかけは?
知識や経験が増えるにつれてアーキテクチャへの関心が高まっていった
エンジニアになったきっかけ
2021年にITコンサルに転職するまでは、IT系の仕事に携わった経験はありませんでした。転職前に、何か今後のキャリアに役立つ勉強をしてみようと考えて、モデリングの検定資格を取得したんです。それがきっかけになり、ITコンサルの教育部門でモデリングやITアーキテクトなどの新人研修を担当することになりました。
研修で人に教える仕事をするうちに、アーキテクチャやモデリングへの関心が高まっていき、2022年にソフトウェア開発会社に転職。同社のモデリング事業部で、ITアーキテクト兼QAとしてDXやモデリングのプロジェクトに携わるようになりました。
現職に転職したきっかけ
前職での業務経験や自主学習によって、関心が高まっていたモデリングを強みにしている企業で働きたいと考え、2024年秋から転職活動を始めました。
転職先選びは、私が重視している5つの軸に沿って行いました。自律駆動型の組織カルチャー、ビジネスアーキテクチャの重要性への理解、社内勉強会の活発さ、自分の強みを活かして企業に貢献しながら関心のある領域を体験できること。くわえて、年収が自分の許容できる最低ライン以上であることの5つを検討した結果、現職が最適な職場だと考えました。
――これまでの技術学習と取得資格について聞かせてください
書籍学習をベースにして、勉強会や技術ブログ投稿などで理解を深める
これまでの学習内容
ITコンサルへの転職前後の2021年~2022年は、データモデリングやUML、アジャイル開発を中心に学習しました。
前職でモデリングやDX案件を手掛けるようになった2022年からの主な学習テーマは、分散アーキテクチャやマイクロサービスの設計、クリーンアーキテクチャです。これらのテーマを学ぶことで、ITアーキテクトとしてのスキル向上に取り組みました。
現職への転職前に学んだのは、システムアーキテクチャ、ビジネスモデリング、ドメイン駆動設計(DDD)、組織設計です。いずれも、より広範で高品質なアーキテクチャの実現に役立つものです。
初学者時代から現在まで、実務と技術本での学習をベースにして、勉強会やイベントなどに参加して理解を深めるという方法で学んでいます。イベントでの発表やQiitaブログへの投稿といった、学習成果のアウトプットにも力を注ぎました。2年ほど前から、機能要件定義のためのフレームワーク・RDRAも活用しています。
年 | 主な学習方法 |
2021年~2022年 | データモデリング、UML、アジャイル開発 |
2022年~2024年 | 分散アーキテクチャ、マイクロサービスの設計、クリーンアーキテクチャ |
2024年~現在 | システムアーキテクチャ、ビジネスモデリング、ドメイン駆動設計(DDD)、組織設計 |
元々、勉強自体は好きだったんですが、学生時代はここまで熱心ではなかったと思います。アーキテクチャ関連の学習は、難易度が高くて一筋縄ではいかないものです。さまざまな情報を吸収しながら頭をフル回転させて学ぶ必要があり、その難しさが大きな魅力で、学習への積極性を高める理由になっています。
IT系1社目から2社目への転職によって年収は約120万円アップし、現職への転職でさらに約300万円アップしました。業務にくわえて、自主学習での知識向上に取り組み続けてきた結果、約3年で計420万円の年収増を実現できました。
保有資格
当時の職場で使用していたJavaのプログラミングスキルを問うJava Silver SE8を取得したのは、2021年。準備期間は約1か月半で、毎日90分ほど問題集を中心に学習を進めました。
また、2021年にUMTPモデリング技能検定のL1を取得し、翌年にL2を取得。設計やモデリングへの関心が高まっていた時期で、今後の転職も視野に入れて資格を取ろうと考えました。L1の準備には2ヶ月ほど1日約2時間を費やし、仕事をしながら試験準備をしたL2は1日1時間の学習を3か月ほど続けました。
資格名 | 取得年 | 概要 |
UMTPモデリング技能検定L2 | 2022年 | ・UMLモデルの読み書きに必要なスキルを有していることを証明する検定 ・モデリングができ、他者のモデルの意味を理解する知識・スキルが問われる |
UMTPモデリング技能検定L1 | 2021年 | ・UMLを使ったオブジェクト指向モデリング、およびオブジェクト指向反復型開発プロセスの基礎的なスキル・知識を問う検定 |
※正式名称:Oracle Certified Java Programmer, Silver SE 8 認定資格 | 2021年 | ・Javaアプリケーション開発に必要な基本的なプログラミング知識を有することを証明する資格 ・試験では多種多様なプロジェクトで発生する状況への対応能力も評価される |
――おすすめの技術書は?
ITアーキテクト志望者におすすめしたい6冊の良書
実践UML/良いコード悪いコード
エンジニア初学者時代の2021年~2022年に読んだ書籍の中でも特におすすめなのは『実践UML』と『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』です。
『実践UML』は、オブジェクト指向の分析・設計プロセスを体系的に学ぶことのできる本です。『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門』では、コードの書き方と設計の基本を実践に即して学ぶことができました。
クリーンアーキテクチャ/ソフトウェアシステムアーキテクチャ構築の原理
繰り返し読んで学習した書籍は、数多くあります。中でも『クリーンアーキテクチャ』と『ソフトウェアシステムアーキテクチャ構築の原理』の2冊はおすすめの良書です。
『クリーンアーキテクチャ』は前職のモデリング事業部で仕事を始めた頃に読んだ本で、設計の原則や考え方を学ぶことができました。『ソフトウェアシステムアーキテクチャ構築の原理』を購入したのは初学者時代です。アーキテクチャの普遍的な原理を解説する内容がかなり難解で、何度も読み返して理解しました。ITアーキテクトをめざす方々に、ぜひ読んでほしい本です。
ソフトウェアアーキテクチャハードパーツ/上級SEのためのビジネスモデリングテクニック
また、この2年ほどの間で読んで、成長につながった本の代表が『ソフトウェアアーキテクチャハードパーツ』と『上級SEのためのビジネスモデリングテクニック』です。
2023年夏に繰り返し読んだ『ソフトウェアアーキテクチャハードパーツ』は、マイクロサービスにするメリットとデメリットを多角的に評価する設計思想を解説した本です。『上級SEのためのビジネスモデリングテクニック』では、ドメイン駆動設計に携わる上で必須となるスキルを学ぶことができました。
――今後のキャリアパス、興味を持っている技術をお聞かせください
好きな技術はモデリングとの親和性が高いJava。今後はデータマネジメントと運用設計のスキル向上に取り組みたい
興味のある技術
言語ではJavaが好きです。 モデリングとの親和性が高い言語だと感じています。
Zachman FrameworkやUnified Architecture Framework (UAF)といった、エンタープライズアーキテクチャのフレームワークへの関心も高いですね。これらのフレームワークは、前職で担当した大規模システムのアーキテクチャ構築案件で使用しました。特定の言語用のフレームワークにはない汎用性が大きな魅力です。
今後のキャリアパス
今後のキャリアの方向性として、2つの点を重視しています。
まず、データマネジメント領域のスキル向上。情報の品質を考慮して、データアーキテクチャの領域を極めていきたいと考えています。この点は、エンタープライズアーキテクトとしての役割を担う現職の業務で取り組んでいけると思います。
もうひとつが、運用設計領域のスキルアップです。迅速な復旧のための情報設計や連携フローの設計などを含めた組織設計全般について、知識と経験を増やしたいと思っています。運用設計については、今後も必要に応じて積極的に提案をしていきたいです。
――ITアーキテクトの適性があるのはどのような人だと思いますか?
前提を批判的に深掘りする、物事を立体的に捉える、未来から逆算して考えることが、ITアーキテクトの大切な適性
この職種に適性がある人
本質は何なのかを深く、批判的に考えることが好きな人は、ITアーキテクトに向いています。コストを極力抑えて多数の利害関係者からの要求を満たすには、システムについて前提から考え、他の選択肢の検討や異なった角度から考えることが必要です。前提条件を深堀りして、継続的な検証や批判的に検討する姿勢が求められます。
物事を俯瞰して立体的に捉えることができる人も、ITアーキテクトの適性があります。具体と抽象を行き来しながら、複数の品質軸でシステムを評価することが、ITアーキテクトには必要です。ひとつの面だけを追求すると、他の面でマイナスが生じることがあります。複数の品質軸を立体図形の各面として捉え、その上でひとつの立体として合体させる思考や行動ができる人は、ITアーキテクトとしてのスキルを向上させやすいはずです。
未来のありたい姿から逆算して考えることができる人も、ITアーキテクトに向いています。物事を未来から逆算する思考方法は、アーキテクチャのロードマップを描く際の必須スキルのひとつです。
初学者はITアーキテクトに向いていない、といったことは全くありません。システム設計に興味のあるエンジニアには、ぜひ挑戦してほしい職種だと思います。
私のおすすめガジェット
2024年に購入したコードレス掃除機を、ほぼ毎日使っています。リモートワークで使用するパソコンデスクの上や足元には、すぐに細かいホコリがたまってしまいます。手軽に使えるこの掃除機は、デスク周辺を清潔に保って気持ちよく仕事をするための必需品です。
まとめ
ITアーキテクトとして活躍している方の仕事内容や今後イメージしているキャリアパスについてお伺いしました。
これまでにどのようなインプットを経て現職に辿り着いたのか、今の仕事で大変なことなど実際にエンジニアとして働いているからこそのリアルな声をシェアしていただきました。
未経験からエンジニアを目指している方や転職を考えている方にとって非常に貴重なインタビューでしたので、皆様の今後の活動の参考になれば幸いです。